「世界中を旅する教育者」を目指すクマのブログ

大好きな教育を多角的な視野で俯瞰し、日々関心を持ったことをブログにあげていきます。

Don`t Do It ~NIKEの強い意志と人種差別問題~

「For once. Don`t Do It.(これきりでやめよう)」

 

アメリカ大手スポーツブランド、ナイキは米国の人種差別撤廃に向けて行動を促すメッセージ動画を公開しました。米黒人暴行死事件とその抗議活動への対応とみられ、注目を集めています。

https://www.youtube.com/watch?v=drcO2V2m7lw

 

*米国人暴行死事件

「25日にミネソタ州ミネアポリス(Minneapolis)で黒人男性のジョージ・フロイド(George Floyd)さんが警察の拘束下で死亡し、米国各地でこれに対する抗議運動が起きている。
 フロイドさんの死の状況については携帯電話で撮影された動画があり、白人警官1人が膝でフロイドさんの首を9分近くにわたって押さえつける姿が捉えられている。フロイドさんが動かなくなった後も警官は押さえ続け、脇には警官3人が立っていた。この動画は今や世界中に拡散している。」(c)AFP参考

 

もともとスローガンであり、多くのナイキのシャツにプリントされてある「Just Do It.」には、ナイキの哲学が込められています。

 

「Just Do It.」は1977年、死刑制度を中止していたアメリカで、自ら死刑執行を望んだ犯罪者のゲリー・ギルモア(彼は当時、死刑の廃止の潮流にあるアメリカに「死の判決」は社会に必要であると要求し、家族や死刑廃止団体の反対を最後まで振り切った)の銃殺刑執行の際、撃たれる前につぶやいた最後の一言が

Let`s Do It.(さあ、やろう)

であり、これからヒントを得て1988年に生み出したスローガンで、「ごちゃごちゃ言わないでやろうぜ!」というシンプルかつ力強いメッセージは多くのアスリートに勇気を与えてきました。

 

ナイキはこの有名なフレーズを「Don`t Do It.」に変更して、人種差別問題に真剣に向き合うように呼び掛けています。

 

今回、スローガンを変えたのは、現在のアメリカ社会を揺るがしている問題がナイキにとって見過ごすことができないものだからでしょう。

 

2018年には「Just Do It」30周年記念キャンペーンで広告の顔に、アメフトのスーパースター、コリン・キャパニックを起用し「黒人をキャンペーンの顔にするとはどういうことだ」と保守派から批判を浴び、ドナルド・トランプ大統領もツイッターで「ナイキは馬鹿だ」と揶揄。ナイキの商品が各地で燃やされたり、不買運動が起きてしまいました。

 

しかし、テニスのセリーナ・ウィリアムズNBAレブロン・ジェームズらがナイキをサポートすることを公表し、ナイキのキャンペーンはアメリカを分断する議論に発展しました。

 

ナイキのような大企業が政治問題や人種問題に足を踏み入れることには大きなリスクを伴います。

 

しかし今回、アメリカを変えるためにその大きな一歩を踏み出す姿勢を公表したのです。また、ジョーダンブランドも黒人差別撤廃運動に協力することを表明。マイケル・ジョーダン氏も1億ドルを寄付したことを明らかにしました。

 

この動きに、今回はナイキの最大のライバル会社であるアディダスも賛同し、コメントを出しています。

 

「Together is how we move forward. Together is how we make change.」

(力を合わせて、前に進んでいく。力を合わせて、世の中を変えていく。)

 

ナイキの「もう、やめよう」による、400年続く人種差別歴史のあるアメリカ社会に終止符を打つという大きな決意表明は、今後もスポーツ界のみならず、多くの場所で様々な影響を与えることでしょう。

 

「Black Lives Matter」

(黒人の命は大切だ)

 

*日本語訳は格助詞「は」ではなく「も」、「こそ」など様々だが、今回は「は」を起用

 

https://youtu.be/JvoGUFd9KB8

 

これはアメリカの歴史に強く刻み込まれる1ページになるでしょう。私たちはこの「歴史的転機」の真っ只中にいることも間違いないでしょう。少なくとも、11月の大統領選には大きな影響が出るでしょう。(前副大統領バイデンがトランプと対峙するだろうが、バイデンは協調思考すぎて何も変革が起きないのではないかと危惧されている面もある。)1863年リンカーンによる奴隷解放宣言や1960年代の公民権運動、公民権法の成立、そして2014年に黒人初の大統領バラク・オバマの誕生。しかし、黒人の権利は、根本的な偏見がはびこっている状態がずっと続いてきました。それがその他様々な要因とねじりあい、ドナルド・トランプ大統領を生み出したのは事実です。

 

あるジャーナリストが今回の暴行事件を受け、街で黒人にインタビューするときは「あなたは警官に銃を向けられたことがありますか」ではなく、「あなたが警官に銃を向けられたのは何歳のときでしたか」と質問するそうです。そして、多くの人が「~歳のころ」と普通に答えるそうです。日本人の感覚からしたらあり得ないですよね。

 

(また、黒人は10代になると経験的に「黒人としての人との接し方」を覚えてくるそうです。「白人と道ですれ違う時は怖がらせないようにする」{すれ違った人と会話するときは「自分が社会的に大丈夫な人」と相手に感じてもらうために会話の中にさりげなくである自分が大学生であることを入れ込む}、「夜コンビニに行くときは危ない人ではないことを察してもらうために口笛を吹きながら歩く」など、偏見から生まれる黒人としての「自分」を思春期、青年期に形成するそうです。)

 

確かにすべての警察、すべての人が黒人に対して偏見を持っているわけではありません。しかしこの社会組織の構造に変革がないと、中に潜むバッドアップルは取り除くことができないでしょう。

 

2週間が経過するこの運動において、民衆は具体的な要求を提示しています。

 

「Defand The Police

 

これは「警察予算の打ち切りを」と日本語では訳していますが、要するに「警察に割り当てられる莫大な国家予算(日本の約40倍と言われている)の削減をして、地域社会が必要としているリソースに資金を投じろ」という解釈ができます。黒人差別から連鎖して生まれている格差社会を広げないでほしいという必死な思いが具体性を持って主張されています。

 

果たしてこの運動はどこに終着するのでしょうか。

また、人種差別問題は黒人だけではありません。いわゆる、Black Brown やヒスパニック、アジア系、先住民など、多くの人種が北米で共生しています。また、2040年にはアメリカで黒人の数が白人を上回るという統計予測も出ています。

 

少なくとも、私たちは現在アメリカで起きていることを把握して、人種差別問題の本質について考えるべきではないかと思います。日本のテレビでは視聴者にインパクトを与えるためだけに一部暴徒化したものによる店舗襲撃にフォーカスしているところもあります。断片的に伝えるにしても、伝え方が少しずれているところが初めはありました。

本質を自分で調べるようになると、今まで見えていなかった世界が見えることでしょう。私も学び続けたいと思います。